二回目見たので感想も追加しました。ものすごくネタバレまみれなので未見の方は読まない方が良いです……。一応改行しておきます。
【全体】
出てくる悪役や苦しみが一周回ってすごく現代的で面白かったし身につまされました。
もちろん因習村的なヤバい田舎を描いてる面もある(私は宗教的な方面はわからないが諏訪のなんかの信仰とか色々モチーフあるみたいですね)けど、個人的にはそれ以上に、「資本家がモラルなく弱者を食い物にすると本当に最悪なことになりますね!!」という現代社会話として大変面白かった
誰にも会社を渡さぬまま、一族の男の子の魂を乗っ取り女の子には自分の子を産ませる老爺……純然たる被害者である夫婦連れを前に、これからお前たちの間に生まれる子供は自分のものだ、自分のために働かせるのだと勝手に言い切り、「どうせカスのような底辺の人生なら、親子ともども諦めて儂に飼われた方がまだ世のため人のためになる」的なことをのたまったあのシーンは、作中一二を争うレベルで印象的でした。手ひどいやり方の結果、彼らの富の源泉でもある貴重な種族を乱獲しすぎてほぼ絶滅させてる先見の明のなさといいすごいですよ。子供は宝と口では言いつつ、大きくなったら随時、過酷で先の見えない労働環境ですり潰していく昨今の現世にもぴったりのお話ですね~!と思ってしまった。まあ資本家としては奴隷が欲しいよね……自分がなりたくないものを人に押し付けるなよとは思うけど……
あるいは、女だから辛い思いをしたさよちゃんは、村にいたらもちろん不幸だけど、東京で幸せになれるわけではない。もちろん村と違って東京にはパーラーはあるけれど、結局、さよちゃんを苦しめた爺様を富ませた世界と地続きのところに東京の豊かさもある。っていうか、冒頭の血液銀行の描写とか見ると村と全く同じだよね……。さよちゃん個人で見ても、よほどの良い出会いがない限り、龍賀の富と繋がるための道具にしかなれないでしょうし。
「東京に行っても自由になれるわけではないと、どこにもそんな場所はないのだと本当は知っていた(けどそうして夢見ずにいられないほど辛かった!)」と言えるほど正気でちゃんと観察できる子が、こんなもの延々見せられてどれだけ辛かったでしょう、という意味で可哀想だった。坊や(時ちゃん)のほうは、罪なきイノセントな子供がかわいそうな目にあってるのがただただ哀れだけど、辛すぎて自分も手を汚してしまったさよちゃんのあの叫びには別種のしんどさがあった。
ラストも、要はあれって、巻き込まれただけの被害者が、このままいくと罪なき我が子にまで被害が及ぶほどの大惨事になると察して単身命懸けで全責任を引っ被ってくれたおかげでなんとかなりました、って話なので普通に辛くはある。
たまたまそこにいた、善良で能力ある大人であるゲゲ郎が、潔くも全ての因果を引き受けてどうにかしてくれたけど、いくらそうするしかなかったとはいえ、あの人、この村の件に関してはひたすら被害者なわけで……
これから生まれる子供に被害を与えるよりは、これまで蓄積された恨みの数々を今ここで清算することを選んだ彼は本当に偉い、偉いけど、今現在の村人はともかく、これまで数百年間ヤバい所業を積み重ねてきた皆様および現在全国でお薬に頼ってビジネスに励んでいた顧客のみなさまは何にも知らないままなわけで、あんまりな気はしなくもない。まあ、本人が納得してたし、鬼太郎は元気だし、その目で未来見られたから報われたと思えるのかな。そうだとしたら救いだけど……。
あの日願った幸せな世界はその後70年経っても実現してない、とはっきり言っているのもすごいよね。これ系って普通、昔はヤバかったけど今は平和な時代になりました!これからもがんばろ!とかで終わりがちなのに。
希望を抱く子供達が本気で頑張れば平和な未来が叶うかも、とか言ったけど、その主役となるはずだった希望に満ちた可愛い坊やは老人に魂乗っ取られてすり潰されて、恨みを残しながら寂しくこの世を彷徨い、全てが結局おためごかしだったみたいになってしまったのが悲しい。それともこれから始まるんだろうか。そうであって欲しいな。
何が言いたかったかと言うと、あの話、今こことつながる話でもあるよな……人間が一番怖いな……ということです。書いてたらまた見たくなってしまいそう。面白かった。
あと、これは完全に蛇足だけど、最近あまりにもTwitterのおすすめ欄にBL(水木と父の)が出てくるのでびっくりしている。同性愛は異性愛と違って不貞行為にならない、とは私は全く思わないし、婚姻外で性的関係を結ぶなら婚姻中の相手の同意がいるだろだと思う派です。おすすめ欄を調教しようと中日ドラゴンズ関係のTweetをいいねして外す作業を5分くらいしていたけど我に返ってログアウトした。
クライマックスで「友の生きる未来をこの目で見たくなった」と言い放つのは、確かになんというか、相当デカイ感情で……とは思ってはいます。でも、それはそれとしてやっぱり、あの妻の素敵さをわかって良好な夫婦関係を構築できる良い男ってところが最高なのに、妻の存在を抹消してBLにするのは嫌だ……。世界を輝かせてくれた最愛の連れ合いを探して最低10年はひたすらさまよい、惚気ながら感情が昂ぶって号泣し、子どもができたと知ってハチャメチャに元気を出す男なのがいいんじゃないか。せめてそれは棄損しないでほしい。でも岩子さん総攻めならいい。父も水木も受けっぽいし意外と幸せなんじゃないかな……。
感想をこれで〆るのは最悪なので、以下に初見時のメモを残しておきます。
《年代など》
・時代設定は昭和31年=1956年の夏。龍賀時貞は80歳以上である(と自分で言っていた)ため、1876~1867年生まれ。日清戦争が1894年なので、そのとき18~27歳くらいか。
・川上の2000本安打=この年の五月末に達成された巨人選手の記録。
・水木は佐田啓二(「君の名は」の主演俳優)に似ているらしい。男前だ!
・「ようけ近づかん」とタクシー運転手が言っていたため、哭倉村は関西圏ではあると思う。
・10年前に孝三(次男なのに「三」も謎だ)がやらかしてる=10年前の時点で鬼太郎母は囚われている
・鬼太郎父は、さらわれた、とかではなく、生き別れになった、と認識して行方を捜している。戦前は都会に住んでいた(ママは断髪職業婦人)ようなので、太平洋戦争末期の混乱ではぐれたとか?
・鬼太郎父の言葉遣いが古いのは人里離れたところで暮らしていたからなんだな
《工場》
・電車で咳き込んでいた少女(人形を持っている)の人形が工場にある&幽霊族の血を注がれた屍人のなかに小さくて咳き込んでいるものがいる。鉄道を襲っているのかな。
・父がどういう経路で来たのか気になる~、鉄道を襲っているところに幽霊族がいたのでさっそくつかまえた、にしてはそのあと処刑しようとしているんだよな。多分だけど、父はあの戦闘力で捕まっているのはわざとなので、あえて村の中をうろついて捕まり、村のトップの状態を見ようとしたんじゃないかな。
・鬼太郎父をリンチする場面で裏鬼道の人間たちは怪我をしているので、あの般若面は本当に彼らの模様。お嬢さんからの言付け、と言ったのを見ているのも、その後の流れからしておそらく長田の手のもの。
・「その我が子は余のもの」「どうせカスのような人生なのだから、諦めて余に飼われたほうが人の役に立つ」なんかこういうの今も変わらないよね……。
《龍賀家》
・家紋は下がり藤っぽいが多分違う。
・長田の家、上座から順に、時弥、庚子、長田(夫)の順で座っているのが印象的。
・沙世と時弥はどちらも目の下にほくろがある。沙世は右、時弥は左。
・襖絵、一番メインは龍だが、女たちの背後は桜で、あとはなんか狛犬みたいなのとか色々ある。細かく見たかった。
《龍賀の女》
・鬼太郎父の腕を切り落とせと命じた乙米は「声をあげてもだれも来ない」とサディスティックに言う。わたしの予想だが、彼女は今でこそ奪う側に回ってはいるが、元はひどい目にあっていると思う。だからこそ庚子や、かつての自分と同じ立場である沙世はじめ、弱いものに容赦がない。
・多分だが、乙米は長田と好い仲だったのに、父時貞に孕まされて沙世を産まされたあげく、会社を継ぐのにむいた別の婿をとらされたのではなかろうか。
・そう考えると、社長夫妻の仲が悪いのも、ぽっと出の若造である水木に向かって社長が「龍賀の名とともにアレ(=沙世)をくれてやってもいい」と言うなど実の娘にしては冷たいのも理解できる。
・あと時弥もたぶん時貞の子。
・沙世はひどい目にあわされたせいで妖怪にとりつかれ、暴走させている。だが、ひどい目は「龍賀の女のつとめ」:妄想だが、乙米も狂骨にかつてとりつかれていて、それを長田にあげたか封じてもらったとか? 鬼太郎父を封じた狂骨(目隠しされている、裏鬼道衆と同じ赤い髪の)を、長田は沙世と戦うときにも呼び出そうとしていたので、あれは沙世のとは別個体だと思う。
・自分は一族の道具でないと言いたかった沙世。自分自身を見てくれると期待した水木は目をそらして、「こんな風」になったのはあなたのせいだと母を責め、利用しようとしたことを謝る。
・水木は未成年の沙世がひどい目にあったのを気の毒に思っている(俺を殺せと願いながら戦っていた出征中の自分を重ねているのかも)だけで、沙世に気持ちを動かされたわけではないのがいい(cf.「連れ出したいという貴方の気持ちがなにより大事」と沙世は言っていた)
・沙世の狂骨は屍人を含む狂骨たちを一旦腹に詰め込んでから放出する。恨みを孕む彼女と希望である鬼太郎をお腹に抱いた鬼太郎母、ってわけか……
《印象に残ったシーン・演出とか》
・晩酌シーンで釣瓶火が好きになったよ
・ネズミ小僧が良い味だしている
・色が印象的。乙米が青、丙枝が明、緑の庚子。鬼太郎父は赤い目、銀髪、青い着物。水木は青い目、黒髪黒スーツ、赤いネクタイ。時弥は黄色。
・時弥くんと鬼太郎父、「また明日」で別れたのが死亡フラグとなってしまった
・鬼太郎父にたばこをわけるの、いい演出。別の日だけど蕎麦かなんかお夕飯もあげてるね。
・相棒だってさ! 「友が生きる未来を『この目』で見たい」何気なく聞き逃したけど、彼は目玉おやじになって永らえたからこの希望が叶ったのか~ってあとで気付いてテンションあがった
・冒頭に登場する出目金や皆の死に方など、眼球が印象的な映画だった。お供え物のネズミも目を棒で貫かれていたし、被害者もみんな左目をやられている。おそらく最初に殺された幽霊族(わかんないが、ナグラさまじゃないかな)がその殺され方をしている呪いだろう。時貞も眼球が残っている描写がある。鬼太郎が目を隠しているのはこれの影響かも。ただ唯一、鬼太郎父の残った目=目玉おやじの目玉は左っぽいのがまた良い。
《謎》
・冒頭で、水木を見送っていた沙世さんは、なにかに気付いて目を見開いている。なにに気付いたのか。
・社長に出迎えられて水木がお屋敷にあがるとき、天井になにかいた。なに?
・時麿の死体発見直後、裏鬼道の人間たちは明らかに鬼太郎父を殺そうとしていたが、貴重な幽霊族だと当初の長田はわかっていなかったのか? そもそもどう判定するのか? 工場に連れて行って同族の気配を感じて発狂したらわかるとか??最悪だな
・沙世はトンネルで引き返す水木に「幽霊族の人を助けにいくのですか」という。そこまで水木は沙世に対して幽霊族について打ち明けてないと思うが、すでに知っていたのか、あるいは時麿の日記を読んで理解したのだろうか?
《全体》
面白かった。人間が最悪でよかったが、身につまされるところも多々あった。もう一回くらい見に行きたい。